電磁界解析ソフトウェアEMSolution

非線形二次元異方性磁気特性の解析

概要

多くの場合、電磁鋼板は圧延方向(磁化容易軸)とその垂直方向の磁気特性は異なってきます。等方性と言われている材料においてもその特性は異なっています。現在は、異方性特性の詳細な計測が行われるようになってきています。ここでは、EMSolutionを用いた、Fig.1の様なリングモデルでの異方性解析の例を示します。

解説

解析は二次元とします。このモデルでは、磁場方向は全ての方向をとり、異方性解析の検証に適しています。Fig.2に、解析に用いる全体メッシュを示します。形状の対称性は利用していません。

Fig.1 リングモデル(単位:mm)

Fig.2 解析全体メッシュ

ここで、岡山大学から提供されている35A300電磁鋼板の計測データをFig.3、4、5に示します。
磁束密度Bの絶対値と角度を変え、磁場強度Hの絶対値と角度を計測しています。角度方向には5度間隔で計測が行われています。特性は等方性に近い ものですが、圧延方向と直角方向でHの絶対値にファクタ2程度の違いがあり、また、BとHの間に角度が生じています。ここで示したデータは計測値そのまま のもので、スムージングは行っていません。データをスムージングして解析に用いることも考えられますが、ここではデータをそのまま使うことを考えます。詳細に見ると、データにはかなりのばらつきが見られます。

Fig.3 Hの絶対値(35A300)

Fig.4 Hの絶対値(35A300、zスケール拡大)

Fig.5 Hの角度(35A300)

非線形収束計算において、上のようなデータでニュートンラプソン法を使いますと非対称な行列が現れます。このため、対称ソルバであるICCG法を使用することができなくなります。ただし、非対称部分を切り捨てて対称化して解析することも可能で、その場合は、従来通りICCG法が使えます。異方性が大きい場合は、対称化しますと非線形反復が収束しません。この場合は、非対称行列ソルバである BiCGStab法等を使用します。計算に必要なメモリは大きくなりますが収束解が得られます。EMSolutionでは、対称化する、しないのオプションを設け、上の二つの方法を選べるようにしています。35A300の解析では対称性はかなり良いため、対称化しても速く収束します。

Fig.6~9に圧延方向をx軸方向から0、30、60、90度回転させた場合の解析結果を示します。予想されるように、磁束密度が同じ角度だけ回転していることが解ります。それよりも、圧延方向(磁化容易軸)に磁束が流れる部分での磁場の集中に驚かされます。等方の解析を行った場合には決して現れない現象で、異方性解析の重要性を示しています。

Fig.10に、圧延方向と直交方向のB-H特性を入力し、磁気特性が両方向で独立とした計算結果を示します。 Fig.6と全く異なる結果となっており、このような解析が全く用をなさないことがわかります。 Fig.10に圧延方向を0度としたときの、0度および90度における内側、外側半分に通る磁束量のコイル電流依存を示します。90度において、大きな磁束の偏りが見られます。

Fig.6 圧延方向0deg(35A300、30AT)

Fig.7 圧延方向30deg(35A300、30AT)

Fig.8 圧延方向60deg (35A300、30AT)

Fig.9 圧延方向90deg (35A300、30AT)

Fig.10 0、90度における磁束量変化(圧延方向0deg、35A300)

次に、一方向性異方性の大きな35G165材について述べます。Fig.11、12に岡山大学から提供された計測データを示します。0度方向に磁化しやすく、90度方向に磁束が向きにくい性質を持っています。

Fig.11 Hの絶対値(35G165)

Fig.12 Hの角度(35G165)

35G165材のデータはかなり折れ曲がり等が多く、収束が問題となりました。85度においてHの絶対値が大きく折れ曲がっており、データを平滑化しました。 他は元のデータのまま解析に用いました。対称化しますと、ラインサーチ法を組み合わせても非線形収束が難しい状態でしたが、非対称解析により解を得ることができました。
Fig.13にコイル電流を変化させたときの磁束密度分布を、Fig.14に0度および90度における、内側、外側半分の磁束量を示します。90度での内側へに磁束集中が非常に大きいことがわかります。

Fig.13 圧延方向0deg (35G165)

Fig.14 0、90度における磁束量変化(圧延方向0deg, 35G165)

最後に、二方向性異方性を持つ材料(Cubeと呼ぶ)の例について述べます。Fig.15、16に計測データを示します。ほぼ45度に対して対称な性質を持っています。本計測データには、かなりの凹凸があり、生のデータでは非線形収束が見られなかったため、適宜データの補正を行いました。特に、Bの角度一定に対し、HabsがBの単調な増加関数になるように、また、B一定に対し、Hの角度がBの角度に関して単調増加関数になるよう補正しました。 Fig.15、16は補正後のものです。Fig.17に、この場合の磁束分布を示します。0度および90度に磁場の集中が見られますが、一方向性材料ほどの集中は見られません。

Fig.15 Hの絶対値 (Cube)

Fig.16 Hの角度 (Cube)

Fig.17 二方向性(Cube)磁化特性の解析結果(圧延方向0deg、30AT)

この解析は空気ギャップの無い鉄芯で行っており、磁気抵抗のわずかな差が大きな磁束密度分布の偏りを引き起こすという極端なものかもしれませんが、異方性解析の重要性をご理解いただけると思います。異方性解析は、電磁機器の設計に大きなインパクトを与えるものかと思われます。EMSolutionは、r9.6以降で異方性解析が可能です。それ以前の非線形計算と同じ感覚で使用いただけます。過渡解析、スライド運動解析にも対応しています。

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