電磁界解析ソフトウェアEMSolution

直流ブラシレスサーボモータのインパクト負荷解析

概要

定常運転時のある時刻に、外部トルクに定常トルク以上の負荷がかかった場合のインパクト負荷解析例について述べます。

解説

"直流ブラシレスサーボモータのダイナミック解析(SWITCHの位置によるON-OFF機能)"では、直流ブラシレスサーボモータのロータの回転運動を、Dynamic モジュールによる運動連成解析例として、安定平衡点(トルクが正から負にゼロを横切る角度)の解析とその位置からの始動運転解析を示しました。このようにこのようにEMSolutionでは、運動方程式と連成させることにより、モータを実際の現象に近い状態を解析することができると考えます。ここでは、定常運転時のある時刻に、外部トルクに定常トルク以上の負荷がかかった場合のインパクト負荷解析例について述べます。また、EMSolution ver. 10.2.3より、運動方程式連成機能において外部トルクを時間関数として与える機能を追加いたしましたので、これも使用して説明します。なお、この解析を行うには、EMSolutionのDynamicモジュールおよびNetworkモジュールが必要となります。さらに、"シミュレーションツール PSIMとの連成解析"で説明したFeedback回路との連成解析でも同様のインパクト負荷解析を行ってみます。この解析を行うには、上記モジュールとPSIM Couplerモジュールが必要となります。

解析体系はFig.1に示す、"直流ブラシレスサーボモータのダイナミック解析(SWITCHの位置によるON-OFF機能)"と同様、"直流ブラシレスサーボモータの解析"で使用したもので、二次元非線形過渡解析とします。境界条件には4回反回転周期境界条件を設定します。計算条件は、SWICHによるON-OFF入力ではなく、"モータの巻き線へのCOILの適用例"のコイル条件を多少変更して電圧源として、30Turnのコイルを周波数100Hzの三相交流電圧源30Vrmsに繋いでロータの回転数を3,000rpmとします。

Fig.1 解析モデルとメッシュ

インパクト負荷解析を行うにあたり、先にEMSolutionにより定常状態を求めておきます。
PMモータの場合、

  1. 磁石の磁化を与え、電機子電流や端子電圧をゼロとした静磁場解析
  2. この静磁場解析を初期値として、電機子電流や端子電圧を印加した過渡解析

を行う計算手順が良く取られます。電機子電流入力解析では比較的速く定常状態に達するのですが、端子電圧入力解析だと、ロータの磁石の磁束により内部誘起電圧が誘起され、定常に達するまでやや時間がかかってしまう場合もあります。どちらの条件でも"時間周期問題の定常解への高速収束"で示した時間周期有限要素法(SD-EEC法)を使用すれば、より速く定常状態を求めることができます。今回のモータモデルでは、電圧源解析しても速く定常状態に達します。

次に、この定常状態から運動連成解析を行い、ある時刻でインパクト負荷を与える解析を行います。定常状態として得た結果を初期値として、運動連成をRestart解析します。Restart解析は、時刻0から行うこともできます。ただし、端子電圧位相を合わせ、ロータの回転角度を運動方程式の初期角度として入力する必要があります。最初は定格トルクを与えて計算し、時刻10msec(機械角90度回転した時)で定格トルクの120%の外部負荷トルクを与えてどのような挙動が起こるかをみてみます。このとき、慣性モーメントを$2.e-4kgm^2$とします。なお運動連成解析を行うと、motionファイルに、時刻、位置(角度)、速度(角速度)、力(トルク)が出力されます。
Fig.2にロータ回転速度を、Fig.3にロータ回転角度を、Fig.4に計算されたトルク波形と与えた外部トルクを合わせて、Fig.5にコイル電流波形を示します。制御無しの端子電圧入力解析ですので、定常トルクの120%がかかると、定常速度18,000deg/secから徐々に落ちて行き、トルクも定常トルクから小さくなり負値となり、同期が取れなくなっている様子が見て取れます。

Fig.2 ロータ回転速度

Fig.3 ロータ回転角度

Fig.4 トルク波形と外部トルク

Fig.5 コイル電流波形

次に同じ解析を、PSIMとの連成解析機能 PSIM Couplerモジュールを使用して行ってみます。"シミュレーションツール PSIMとの連成解析"の項目3.2で使用したPSIM回路を少し変更したものをFig.6に示します。このときの運動方程式の等価回路をFig.7に示します。運動方程式のパラメータは、Subcircuitである運動方程式の等価回路の“Attribute”で設定します。この場合、EMSolutionのinputファイル中の運動方程式パラメータは無視されます。PSIMとの連成解析でも、EMSolutionの定常解を初期値として解析できます。Fig.7では、運動方程式をPSIMの等価回路として解いていましたが、EMSolution内部で運動方程式を解き、回転速度と位置を出力してPSIMに受け渡すこともできます。この場合のPSIM回路図をFig.8に示します。どちらの回路でも、機械角(deg/sec)を電気角(rad/sec)に変換する際に、まず初期ロータ位置-45度を電気角0度とするために45を足し、次に4極ですので、機械角を電気角に変換するために2倍しています。さらに、EMSolutionの定常計算でVuの初期位相角-120度を足し、deg/secからrad/secへの単位変換をしてdqo-abc変換ブロックの角度に引き渡しています。また、定常状態での電圧の振幅として、30Vrmsを、回転速度と速度指令との差をPI(比例積分)信号としてd軸成分として与えています。外部トルクは、最初に定常トルクを負荷トルクとして与え、10msecに定常トルクの120%を与えています。EMSolution中で運動連成した方が計算初期の変動が小さく済むようです。

Fig.6 PSIM回路図
Subcircuitで運動方程式の
等価回路を定義

Fig.7 運動方程式等価回路図

Fig.8 PSIM回路図
EMSolution中で運動連成

以下、Fig.8の回路図で計算した結果を示します。Fig.9にロータ回転速度を、Fig.10にロータ回転角度を、Fig.11にトルク波形を外部ト ルクと合わせて、Fig.12にコイル電流波形、Fig.13に端子電圧波形を示します。EMSolutionでの電圧値とPSIMでも電圧値がわずかで すが異なるため、EMSolution単体でRestart解析した場合と比べて、初期に速度の変動があるようです。PI制御の定数が大きいためか、回転 速度が指定値18,000deg/secで振動していますが、時刻10msecにて外部トルクが120%与えられても、10msec後の時刻20msec にはまた指定値付近で振動し出し、トルクもそのように振舞います。端子電圧も時刻10msecでやや大きくなり、それに伴いコイル電流も大きくなってお り、制御回路が正常に働いている様子が見て取れます。

Fig.9 ロータ回転速度

Fig.10 ロータ回転角度

Fig.11 トルク波形と外部トルク

Fig.12 コイル電流波形

Fig.13 端子電圧波形

このように、外部トルクを時間変化で与えて運動連成解析を行えば、定常状態からのインパクト負荷解析を行うこともできることが示せたと思います。今回使用 したモータでは、EMSolution単体で解析した場合では同期から外れていく様子を、PSIMとの連成解析では制御回路により指定速度に復帰していく 様子を見て取れたと思います。今回使用したモデルは二次元モデルであり、またあまり現実的なものではありませんが、本法の利点の一端はご理解いただけるも のと思いますので、ご利用頂けると幸いです。

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