電磁界解析ソフトウェアEMSolution

非磁性体における節点力とローレンツ力

概要

EMSolutionにおきましては、非磁性導体に働く電磁力を節点力法とローレンツ力法で求めることができます。両者は理論上等価なものですが、数値解 析手法が異なりますので、離散化誤差等により完全に一致させることは困難です。ここでは、両者の関係と違いを説明したいと思います。また、電磁力の表現方 法として、電磁力密度、要素力、節点力等が考えられ、EMSolutionでもいくつかの方法で電磁力の分布を出力しています。これらは同じものを異なっ た表し方で出力をしているだけですが、等高線などで表示するとかなり異なって見えますので、惑われる方も多いかと思います。ここでは、それらについて説明 したいと思います。

解説

まず、節点力法におきましては、マクスウェル応力テンソルを直接積分します。線形材料中のマクスウェル応力テンソルは、

$$T_{ij} = H_i B_k – \delta_{ij} \frac{B \cdot H}{2}     (1)$$

と表され、非磁性体に対しては、

$$B = \mu_0 H     (2)$$

の関係があります。
ここで$μ_0$は真空の透磁率です。
電磁力はマクスウェル応力を次のように空間微分して求めることができます。
ここで、$f_i$は電磁力密度($N/m^3$)の方向成分を表します。

$$f_i = \sum_{k=1}^3 \frac{\partial T_{ik}}{\partial x_k}     (3)$$

節点力法では、次のように、(3)式の電磁力密度に節点形状関数 をかけ、空間積分したものを節点nの節点力とします。
部分積分を適用しますと次のように表されます。

$$F_{ni} = \int f_i \omega_n dV = \int \sum_{k=1}^3 \frac{\partial T_{ik}}{\partial x_k} \omega_n dV = – \sum_{k=1}^3 \int T_{ik} \frac{\partial \omega_n}{\partial x_k} dV     (4)$$

$ω_n$は節点nで1、その他の節点では0となり、一次要素ですと要素内で線形に変化する関数です。 節点nを共有する要素内でのみ値を持ち、(3)式の積分は節点nを共有する要素内のみの積分となります。 ただし、導体要素の一層外側の要素でも、導体表面の節点を共有する要素で被積分関数が値を持ちますので、注意が必要です。 ここで解りますように、節点力法では、磁場BおよびHのみから電磁力を算出します。 また、非線形磁性体では(1)式のマクスウェル応力の形は変わりますが、磁性体でも同様に計算できる一般的な方法です。

節点力法における要素力は、求まった節点力をその節点を共有する要素に割り振って求めます。 すなわち、その節点を共有する導体要素の数をkとしますと、 節点力をkで割り、各要素に足しこみます。 導電率が異なる導体が接している場合、その両側で、電磁力の割り振りは異なるはずですが、考慮していません。 あくまで、節点力法では、節点力が基本で、要素力はそれから導出されたものですので、節点力のほうが精度があると考えます。
一方、ローレンツ力による電磁力は、

$$f = J \times B     (5)$$

を、空間積分して求めます。
(3)式と(5)式は非磁性体では等価で、(1)、(2)式を(3)式に代入すると容易に(5)式が導出できます。
ローレンツ力の節点力は、

$$F_n = \int f \omega_n dV = \int ( J \times B ) \omega_n dV      (6)$$

と、直接ローレンツ力に節点形状関数をかけて積分します。
(6)式の積分では、節点力と異なり、積分領域は導体要素内のみとなります。 また、別途電流密度 を計算する必要があります。 ローレンツ力の節点力は、節点力法の節点力と紛らわしいですが、節点力はより広い概念で、両手法で求め方が違います。 ローレンツ力法での要素力は(5)式の電磁力密度を各要素で体積積分します。 (6)式で、$ω_n$=1として、要素内で積分することになります。 要素力を領域でトータルした力と、節点力をトータルした力は完全に一致します。 要素電磁力密度は、要素力を体積で割り平均します。 以下、解析例によって、電磁力の表し方について説明します。 解析例として、「非磁性薄板要素に働くローレンツ力」のものを使用します。 Fig.1、2に節点力法とローレンツ力法によって求められた電磁力密度分布を示します。 ポスト出力で、FORCE_NORDAL=2と指定しますと、電磁力密度は両手法で求まった要素力を要素の体積で割って計算される要素量として出力されます。 両手法による一致は良いものとなっています。 非磁性体中の電磁力は、一般に体積分布するものですので、この表示の仕方がもっとも解りよいものと思われます。

Fig.1 節点力法による
電磁力密度強度分布($N/m^3$)

Fig.2 ローレンツ力法による
電磁力密度強度分布($N/m^3$)

FORCE_NORDAL=1、FORCE_J_B=1としますと、要素量として要素力が出力されます。単位はNで各要素に働く電磁力となります。要素力の分布をFig.3、4に示します。 これは、Fig.1、2にそれぞれ各要素の体積をかけたものとなっています。薄板非磁性要素に対しては、代わりに面積と厚さがかけられます。 この場合、要素の体積がかかりますので、要素体積が異なりますと、Fig.1、2の電磁力密度の分布とは異なってきます。本例では、ソリッド側は2層になっていますので、面要素側の約半分の値になっています。

Fig.3 節点力法による
電磁力要素力分布(N)

Fig.4 ローレンツ力法による
電磁力要素力分布(N)

節点力の分布はFig.5、6のようになります。FORCE_NORDAL、FORCE_J_Bが1、2のどちらでも同じ出力で,出力は節点量で、単位は Nです。 Fig.5、6とは同じものを表しているのですが、見え方はかなり変わります。この理由は、上で説明しました求め方が異なることに起因します。節点力は節 点を共有する要素で分布力に節点形状関数をかけて積分していますので、節点を共有する要素数や要素の大きさに依存します。 電磁力密度が一定としますと、6面体の角の節点では要素力の1/8、稜線では1/4、表面では1/2の値になります(面要素では、四角形の角で1/4、辺 上で1/2)。 導体内部の節点で同じ値となります。

Fig.5 節点力法による
電磁力節点力分布(N)

Fig.6 ローレンツ力法による
電磁力節点力分布(N)

節点力の分布表示は、非磁性導体のような体積分布力の場合には、あまり直感的とはいえません。節点力は応力解析から出た概念で、応力解析に分布力を与える場合、節点力として与えることが一般的です(体積力を応力解析内部で節点力に変換することもありますが)。 そのため、EMSolutionの節点力出力は応力解析に電磁力を引き渡すには適した形となっています。
Fig.5、6では、対称面上(本例ではy=0面)の節点に対して、対称面反対側の要素からの寄与を加え、対称面で分布が滑らかに見えます。応力解析を行 う場合は、この必要がないため、応力解析用にFig.7、8の出力機能を用意しました。FORCE_NORDAL=-1 or -2、FORCE_J_B=-1 or -2としますと、この出力になります。 要素量は、それぞれ、1あるいは2としたときと同じ出力になります。この場合、対称面反対側の寄与は加えられず、対称面で不連続な分布となります。本例の 場合、y=0面上の節点でFig.5、6の半分の値となっています。

Fig.7 節点力法による
電磁力応力解析用節点力分布(N)

Fig.8 ローレンツ力法による
電磁力応力解析用節点力分布(N)

ここで示しました例では、節点力法のものとローレンツ力法のものが良く一致して問題無いのですが、「非磁性薄板要素に働くローレンツ力」に述べましたように、一致がよくない場合もありますので、ご注意ください。また、磁性体の場合は、ローレンツ力法は適用できず、節点力法しか使用できません。その場合、考え方は同じですが、磁性体の表面に電磁力が主として現れ、表示によって大きく変わる事がありますのでご注意ください。

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