電磁界解析ソフトウェアEMSolution

変圧器解析

概要

 変圧器は磁気回路を代表する電磁機器であり、交流電圧を昇降(電流を降昇)させる機器として知られています。ここではEMSolutionによる変圧器の解析例を示します。用途は異なりますが、リアクトルも変圧器によく似た構造をしており、解析方法も変圧器とほぼ同様となると思われますので、参考にして頂ければと思います。

解説

 対象とする変圧器の解析モデルは、文献(1)の設計例にある三相内鉄形変圧器を参考に作成しています。仕様は、容量5,000kVA、周波数50HzのY-Δ結線で、一次線間電圧63,000V、二次相電圧6,600Vの油入自冷式です。解析モデルは鉄心とコイルのみとし、鉄心をメッシュジェネレータによりXY平面に二次元有限要素メッシュを作成し、EMSolutionの機能2D_to_3DでZ方向に積み上げて三次元メッシュを作成しています。この2D_to_3Dは、EMSIを使用することにより視覚的に簡単に積み上げデータを作成できます。コイルはCOILによりブロックコイルとして定義します。Fig.1に有限要素メッシュを示します。モデルは対称性より、1/4モデルとなっています。電磁場解析ではよく解析モデルの対称性を利用してメッシュ作成され、メッシュ数削減とメッシュの対称性の誤差を除けるという利点があります。Z=0面を磁場が面に沿う電気壁境界,Y=0面を磁場が面に垂直に入る磁気壁境界として与えることで対称性を考慮できます。一般に変圧器は方向性電磁鋼板が使用されるため、鉄心は縦方向のコイルに巻かれている鉄心と横方向ではプロパティを変えておきます。コイルは一次側981ターン、二次側178ターンの丸型の同心円筒巻線で、鉄心も積み上げ方向に積層鋼板の幅を変えていくことにより円筒断面となっています。COILは有限要素メッシュとは別に定義できるため、コイルをSDEFCOILなどのように有限要素メッシュで作成するのと比べ、要素数を大幅に削減することができます。なお、COILは有限要素メッシュのように対称面を考慮できないため、1/1フルモデルで定義し、COIL定義領域(油領域)は変形ポテンシャル領域とする必要があります。また、COILを使用しているため、コイル抵抗を外部抵抗として接続し、“COIL(外部電流磁場ソース)のインダクタンス計算”機能によるコイルインダクタンスを計算するための積分要素を有限要素メッシュ内分定義しています。

Fig.1 変圧器 有限要素メッシュ:1/4モデルとCOIL

 まずは確認計算の意味も含め、二次側を解放し、一次電圧63000kV/50Hzの交流電圧を印加した無負荷解析を行ってみます。この条件での電源回路をFig.2に示します。二次側を解放して無負荷誘起電圧を得るために、電流ゼロの電流電源を接続します。これにより、電流電源の電圧値が無負荷誘起電圧となります。これはモータの無負荷誘起電圧を得る場合も同様の方法が取られます。
 電源回路はNETWORKにより設定します。CIRCUITではマトリクスで入力するため、"Y結線やΔ結線"は設定が難しいですが、NETWORKは回路素子(ノード)を繋いで直観的に設定することができます。また、簡単のため積層鉄心の透磁率の大きい線形材料(比透磁率3000)とします。こうすると、鉄心の磁気飽和による漏れ磁束は無い理想形として解析されます。この条件により、線形交流定常解析により解析することができます。ただし、鉄心中の磁束密度は磁気飽和を考慮した解析ではありませんので角部等磁束密度が集中する箇所では仕様値よりも高くなり、電圧電源での解析ですので電流結果に影響してきますが、鉄心断面を通過する磁束は正しく計算されるため、電圧結果は正しい解が得られます。

(i)一次側

(ii)二次側

Fig.2 無負荷解析 電気回路

 Fig.3に一次電流波形、Fig.4に二次電圧波形を示します。交流定常解析であるため物理量は正弦波で変化します。一次電流は無負荷電流(励磁電流)です。三相内鉄形によることとコイル抵抗を与えているため、無負荷電流は三相平衡しない様子が模擬できています。理想的には対称の位置にあるVW相の電流値の振幅は一致しますが、抵抗があるため一致しません。しかしコイル抵抗が非常に小さいため、無視できる程小さい差となっています。二次電圧である無負荷誘起電圧は、コイル鎖交磁束が三相平衡するように励磁電流が流れているため、三相平衡していることがわかります。Table1に平均した電流・電圧の実効値を仕様値と合わせて示します。励磁電流の仕様値との差は12%弱とやや大きくなっていますが、無負荷誘起電圧は0.05%以下と非常によく一致しています。電流値の差は、先に述べたように適当に設定した比透磁率がやや小さいため、電流値に影響が出ています。BHカーブを設定して非線形解析を行えば、励磁電流ももっと合ってくると考えられます。

Fig.3 無負荷解析 一次電流波形

Fig.4 無負荷解析 二次電圧波形

Table1 無負荷解析結果

 一次側二次側
計算値仕様値計算値仕様値
電流(A)0.57 0.513 0.000
電圧(V)62999.96630006596.506600

 次に、二次側に負荷抵抗を接続した解析を行います。仕様では二次電圧は6,600V、二次電流252.5Aで、二次側の負荷(インピーダンス)は記載されていません。そのため、負荷抵抗のみとして概算して与えることとします。負荷抵抗$R_2$=$V_2$/$I_2$からコイル抵抗を差し引いた26.07Ωを負荷抵抗としてFig.2の電流電源CPS:電流0(ID=17~19)の代わりに設定します。また、一般的に変圧器鉄心には方向性電磁鋼板が使用され、磁束が通る方向が圧延方向として使用されるため(Fig.5)、三方向独立な磁気特性を与えます。積層鉄心には"均質化法による積層鉄心の解析と積層鉄心鉄部の磁束密度の出力"で示した均質化法により磁気特性を与える方法もありますが、これは無方向性電磁鋼板に適用できるものですので、本計算では圧延方向とその垂直方向にそれぞれのBHカーブを、積層方向には "均質化法による積層鉄心の解析と積層鉄心鉄部の磁束密度の出力" 中の(2)式より、鉄の磁気特性を垂直方向として計算した比透磁率33.333を与え、積層鉄心を模擬します。このようにすると、圧延方向とその直角方向の間は両方のBHカーブにより補間されることとなりますが、その間のBHデータもあるようでしたら、非線形二次元磁気異方性特性として与えることもできます。また、本来積層鉄心同士の継目は重ね結合されていますが、これによる磁気抵抗は考えないものとします。継目による磁気抵抗まで考慮したい場合は、簡便な方法としてギャップ要素により磁気抵抗となるように適当な厚みを与えて継目に定義することで模擬することも可能かと思います。

Fig.5 電磁鋼板圧延方向

 非線形磁気特性を考慮するため、非線形過渡応答解析を行います。少ない計算ステップ数で定常状態を得るには、計算初期の過渡状態からいち早く定常状態まで持っていくことが重要となります。通常解析を実行すると、ゼロ初期値から計算されるため、渦電流を含む場合や本解析のように電流が未知数となる場合は、いきなり磁場が印加された状態となるため、どうしても計算初期が過渡状態となってしまいます。そこで無負荷解析で行ったように鉄心中の磁束密度がBHカーブを使用した解析での結果と同程度になるように適当な比透磁率を与えて線形交流定常解析を行い、それを初期値として計算する方法(参考:"誘導電動機の解析")が考えられます。この方法は、適切な比透磁率をサーベイして解析する必要があるため、手間を要してしまします。他の良い方法として、“時間周期問題の定常解への高速収束”のTP-EEC法を使用すれば初期値に関係なく素早く定常状態を求めることができますので、本計算ではゼロ初期値から計算を開始してTP-EEC法を適用します。
 Fig.6に磁束密度強度分布を示します。継目部分の磁束密度がやや高くなっていることがわかります。鉄心断面ではおよそ1.6Tになっていますが、飽和磁束密度までは達していないようです。Fig.7に一次電流波形を、Fig.8に二次電流波形、Fig.9に二次電圧波形を示します。無負荷解析と同様に比透磁率を与え線形交流定常解析した結果も合わせて示します。TP-EEC法により半周期ごとに補正が行われ,素早く定常状態に達していることがわかります。Fig.6の磁束密度分布より、飽和磁束密度に達していないため、電流波形に歪みは見られず、ほぼ線形交流定常解析結果と一致しています。なおBHカーブは初磁化曲線であり、ヒステリシスを考慮していないため、波形にヒステリシスによる歪みは模擬できません。Table2に並進した電流・電圧の実効値を仕様値と合わせて示します。電流、電圧特性は仕様値との差も1%以下と非常に良い一致を示しています。

Fig.6 負荷解析 磁束密度分布

(i)計算開始から定常に至るまで(TP-EEC法)

(ii)定常状態

Fig.7 負荷解析 一次電流波形

Fig.8 負荷解析 二次電流波形

Fig.9 二次電圧波形

Table2 負荷解析結果

 一次側二次側
計算値仕様値計算値仕様値
電流(A)45.5045.8250.78252.5
電圧(V)62942.46 630006537.936600

参考文献

1.竹内:「電機設計学」,オーム社

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